ジョージ・パッカード氏略歴
国際大学学長、ジョンズ・ホプキンズ大学高等国際問題研究大学院(SAIS)教授、
アジア財団理事、日米財団会長
1956年駐留米軍少尉の時、初来日。東京大学社会科学研究所に留学。63〜65年ライシャワー駐日米大使の特別補佐官。79年からワシントンのジョンズ・ホプキンズ大学高等国際問題研究大学院(SAIS)学長を務める。94年4月新潟県南魚沼郡大和町の国際大学学長に就任。98年3月日米財団の会長に就任。米国を代表する知日派の1人。
ワシントンリポート Mar. 2005
米国情報機関内に広がる完全なる無秩序は、現在、政府に関する話で大声では語られないが重要なものの1つである。2001年9月11日から3年半たったアメリカの機密情報を集め、それを吟味したうえで適宜な判断を下す力は、1941年の真珠湾攻撃を目前としていた時以来、最低レベルに落ち込んでいる。その道の専門家と呼ばれる面々によれば、現在の危険はこれまでにないものだという。
問題は、80年代を皮切りに、潜在的脅威の懐に生身の工作員を潜り込ませるといったこれまでの方法よりも、電子機器などによる諜報活動(シギント)に非常な重きが置かれるようになったことにある。
失敗だったのは、中央情報局(CIA)ほか、ワシントン内外の約15にのぼる情報機関が、中東の言葉をしゃべることができる担当官や捜査官を見つけ、育成できなかったことだ。彼らはアメリカの国防に対する大きな脅威は、中国とソビエトだと考えていたのだ。
2001年9月11日以降、議会はブッシュ大統領の反対を抑え、世界貿易センターとペンタゴンに自爆攻撃をもたらす結果に終わった情報機関のひどい不手際に関して調査するよう命じた。調査委員会は、1年以上にわたる慎重な審議のあと、2004年に長大なレポートを発表した。その中で、大統領に出された主要な提案のうちの1つが、現在「情報機関」として存在している、ふらふらと中核がない状態の16の組織をまとめる「帝王」が必要だというものである。これは理念としては悪くなかったが、実際のワシントン政治の世界においては悪夢となる。
「情報は力だ」古いことわざに言うように、ワシントンの政界にあって喜んで権力を明け渡す組織などありはしない。新しい役職に最も懸念を抱いているのは、ドナルド・ラムズフェルドと彼のもとで仕事をしているさまざまなスパイ機関だ。これまでラムズフェルドは情報関連予算の80%ほどをその支配下に置いてきたが、新しい体制の下では、その情報「帝王」が、どこにどれだけ予算が行くのかを決定することになる。
ブッシュ大統領は、その「帝王」にふさわしい人物を探すのに手こずってきた。最初に選ばれたバーナード・ケリックはまるで悪い冗談だった。彼はニューヨークの前市警本部長だったが、そのキャリアは議会の公聴会にさらされたら、恥ずかしいような数々の「問題」にまみれていたのだ。彼は早々に退散した。
次の候補は、現在駐イラク・アメリカ大使(そして私の友人)のジョン・ネグロポンテである。彼は非常に優秀でやや控えめなしっかりした男だ。そのキャリアのほとんどが海外勤務のため、中には予算や勢力争いなどのお役所的対立が生じた時に、彼がラムズフェルドにはっきりと物言いができるのかといぶかる連中もいる。
少し前に、ネグロポンテは、CIA長官のポーター・ゴスではなくて、自分が毎朝行われる大統領報告についての責任者になると言い切って世間を驚かせた。これは、毎朝8時に大統領のもとへ、情報機関の高官によって直接届けられる10ページから20ページの報告書のことで、この役職はワシントンで最も力のあるもののうちの1つである。報告書を見ることができるのは、ほんのわずかな人間に限られており、ネグロポンテは、大統領に直接自分の意見や優先事項を伝えることのできるポジションに着くことになるのだ。
CIAは危機的状況にある。ゴスは2004年に長官職に着いたとき、キャリア組の上層部を解任し、自分の一派の政治家連中を主な副官として配置した。主だったキャリア工作員の多くが辞職し、士気は低下したままだ。ここでネグロポンテが登場したことで、CIAは権力の隅っこに追いやられるだろう。
一方、ラムズフェルドは、軍の情報部が、外国でその国の米国大使に断りなく内々の任務を実行することができるようにするための密かな計画に着手している。これは、国務省が猛烈に反対する前例のない政策変更である。
私は、ネグロポンテが間もなく起こると思われるぶつかり合いで、ラムズフェルドを出し抜くだろうと思っている。しかしこの間、アメリカは、少なくとも2001年9月10日の時点と同じくらいテロ攻撃に対してもろい状態にあるし、議会は次の致命的攻撃がなされるまで、その危険について感知することはないだろう。
−ジョージ・パッカード
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