ジョージ・パッカード氏略歴
国際大学学長、ジョンズ・ホプキンズ大学高等国際問題研究大学院(SAIS)教授、
アジア財団理事、日米財団会長
1956年駐留米軍少尉の時、初来日。東京大学社会科学研究所に留学。63〜65年ライシャワー駐日米大使の特別補佐官。79年からワシントンのジョンズ・ホプキンズ大学高等国際問題研究大学院(SAIS)学長を務める。94年4月新潟県南魚沼郡大和町の国際大学学長に就任。98年3月日米財団の会長に就任。米国を代表する知日派の1人。
ワシントンリポート Sep. 2006
8月の終わりのワシントンでは、これといって大したことが起こらない。メディアはくだらない退屈なニュースに走りがちだし、政府高官たちは、夏休みで出払っている。有力紙の編集者やレポーターたちの多くも、ビーチに寝転がっているか、山の中で涼んでいるといった具合だ。8月、真夏の盛りにどでかい“スクープ”が流されることなど滅多にない。
だからこそ、先日8月27日付の日曜版ワシントンポスト・意見コラム欄に載った寄稿記事を読んで、こちらの外交関係者たちはびっくりしたのだ。
「日本『思想警察』の台頭(The Rise of Japan's Thought Police)」と題されたこのコラム記事は、産経新聞紙上で、小森義久が「コメンタリー(Commentary)」に掲載された玉本 偉(まさる)の文章を攻撃したことに端を発し、最終的に日本国際問題研究所(訳注:「コメンタリー」の発行元)理事長である佐藤行雄が謝罪するまでにいたった出来事について振り返っている。文中では、ほかにいくつも例を挙げ、“1930年代型軍国主義や天皇崇拝、思想統制への回帰をもくろむ好戦的超右派の連中がより勢力を増しており、自分たちと異なる意を持つ人々を攻撃している”と事細かに指摘している。
筆者であるスティーブン・クレモンズは、こちらのジャーナリスト業界で一目置かれているとはいえない存在ではある。まだ駆け出しのころ、ラディカルなことで知られる大学教授、チャルマーズ・ジョンソンを師と仰ぎ、ともに仕事をしていた経歴があるのだ。けれどもいくつかの理由から、こちらの関係者はこの記事に過敏に反応している。
小泉首相の靖国参拝に関する一連のごたごたは、ワシントンにいる日本問題の専門家たちの間に活発な論議論争を巻き起こした。狭いこのコミュニティーでの大方の意見は、参拝が誤りであるというものだが、これは、日中両国の友好関係がアメリカの国益に影響してくるためであり、米国の政治家たちが、このことを首相に伝えておくべきだったという見方が多い。ホワイトハウスの国家安全保障会議のメンバーの中にさえ、ブッシュ大統領は6月29・30日の小泉首相との会談の際、強い姿勢でこの点を打ち出すべきだったと考えているものが何人かいるのだ。
そのほか、さらなるショックの要因として、佐藤行雄が、日本の戦略的頭脳のトップの1人として、ワシントンとニューヨークで広く知られ、賞賛されているという事実がある。国連大使として就任していた間に、佐藤は多くの友人を得たのだが、彼の友人たちは、今回の屈辱的謝罪に対し、一様にびっくり仰天しているだろう。
加えて「コメンタリー」の記事を書いた玉本が、ジョンズ・ホプキンス高等国際問題研究大学院(SAIS)の博士号を持つ名の通った存在であると同時に、ここが急進主義はおろか、リベラルと目されることすら決してない教育機関だということがある。実際、ポール・ウォルフォウィッツが学部長を務めた1994年から2001年の間、SAISは、親ブッシュのネオコン派の温床とされていたのだ。ワシントンの日本スペシャリストたちは、文章全体を覆う否定的で抑制された彼の主張に驚くはずである。
この話はしばらく尾を引きそうだ。親日家たちは、ここにおいて、なぜ民主主義の同盟国で言論の自由が抑圧されているのかということについて、しっかりした説明を求められるだろう。ブッシュ支持者たちは、1945年から52年にわたる占領によって、日本の素晴らしい民主主義が生まれたと機会があるごとに引き合いに出しては、現在のイラクでの自分たちの存在を正当化している。そういった連中の面目は、今回の件で丸つぶれになるだろう。
日本問題の専門家たちは、次の総理大臣(安倍?)がこの靖国論争を終結する道を探ってくれることを期待している。しかし楽観はできない。安倍が、自ら神社への参拝支持を表明しているからだ。
−ジョージ・パッカード
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