ジョージ・パッカード氏略歴
国際大学学長、ジョンズ・ホプキンズ大学高等国際問題研究大学院(SAIS)教授、
アジア財団理事、日米財団会長
1956年駐留米軍少尉の時、初来日。東京大学社会科学研究所に留学。63〜65年ライシャワー駐日米大使の特別補佐官。79年からワシントンのジョンズ・ホプキンズ大学高等国際問題研究大学院(SAIS)学長を務める。94年4月新潟県南魚沼郡大和町の国際大学学長に就任。98年3月日米財団の会長に就任。米国を代表する知日派の1人。
ワシントンリポート Oct. 2006
ワシントンでは、新たな爆弾発言が飛び出して、負けが込んでいるイラク戦に対するブッシュ政権の釈明をまたまた台なしにする気配だ。ウォーターゲート事件の英雄、ボブ・ウッドワードが3冊目の本を書いたのだが、ここでのブッシュに対する記述のトーンが、彼の過去2冊の本と違っているのだ。先の2冊では、ブッシュはヒーロータッチで描かれ、国をイラク戦に導いた“ネオコン族”に対する支持も表明されていた。新しいこの本には、内部の反対意見でガタガタになり、イラクでの現実に向き合おうとしない政権の様子が描き出されている。
この新刊「State of Denial」では、ブッシュ自身のことは余り語られず、かなりの部分が国防長官ドナルド・ラムズフェルドと国務長官コンドリーザ・ライスに割かれている。戦争に対する幻滅感を増している情報通が、ウッドワードに有害な情報を流しているのは明らかだ。
ラムズフェルドの長年の友人であり、相談役の1人であるスティーブ・ハービッツの一言一句を引用したメモでは、ラムズフェルドは「一般のイメージと違って優柔不断。分野によっては、彼よりも賢い人々がいるのだということを認めようとせず、ほとんど誰も信用しない。それはそれは慎重で、ゴム手袋症候群(決定事項に対して自分の痕跡を残さない性質)にかかっている」と描写されている。
ライスに関する衝撃的な報告の部分で、ウッドワードは初めて、2001年7月10日にCIA長官ジョージ・テネットとライスの間で行われた緊急会談の模様を伝えている。これは、2001年9月11日に、アルカイダが世界貿易センタービルとペンタゴンを攻撃する2カ月前のことである。ウッドワードによれば、テネットはライスに、テロリスト攻撃が差し迫ったものであるとの近況報告について知らせたという。
しかし、テネットは、ライスが彼の言うことを“はねつけ”、ビン・ラディンに対しては、すでに一貫した対策プランが準備されているとして、その報告を無視したように感じたという。当時、国家安全保障担当大統領補佐官だったライスが、ブッシュにこれを伝えることはできたはずなのだが、彼女は脅威の深刻さを理解していなかったとテネットは見ている。
もう1つ、ブッシュ政権の信頼性に打撃を与える要素がある。中東における米軍総司令官であるジョン・P・アビザイド将軍が、戦争を声高に批判し、アメリカのイラク政策を“幻想に包まれた欠陥政策”と呼んだ民主党議員、ジョン・P・マーサに大方の部分で同意していると書かれているのだ。
大統領夫人のローラ・ブッシュは、コリン・パウエル前国務長官と同様、2005年後半にラムズフェルドを解任したがっていたと書かれている。しかし、ブッシュと副大統領のチェイニーは彼らの薦めをかたくなに拒否したのだ。
われわれが今、ワシントンに見ているものは戦争に対する“転換点”であり、1968年初頭、ベトナム戦争時のベトコンによるテト攻勢に似ている。リンドン・B・ジョンソン大統領がその年の11月に再選に向けて出馬しないことを表明したのは、この明らかな失敗に起因している。
今回の場合、大統領選は2008年までないし、どちらにしてもブッシュは再び出馬することはできない。けれども、こういった暴露が、11月7日に民主党議員候補に有利に働く可能性はある。さらに破壊的なのは、ウッドワードの本が、政権のほかの情報通たちが新たに驚くべき事実を公表する後押しをするだろうということだ。
ワシントンのベテラン官僚たちは、風がどちらの方向に吹いているかを察知する能力にたけており、沈みかかった船からはネズミのように飛び降りる。だから、不利な秘密を漏らすことで、自分はこの悲惨な戦争にずっと反対していたと主張しようとするやからがさらに増えてくることだろう。
これから先、元国務長官であるジェームズ・ベイカーが重要な役目を果たすのではないかというのが、わたしの一貫した予測だ。彼は、イラク情勢を査定するブルーリボン委員会の委員長を務めたが、最近、暴動を個人的に視察するためにバグダッドを訪れた。忠実な共和党員であるため、11月7日の選挙が過ぎるまで、いかなる公の報告書も出さないでいる。
しかし、たぶん今年度末になると思われる、彼が大統領と議会へ報告するあかつきには、現在のイラク政策を終了し、おそらく段階的な撤退をすることを薦めるだろう。これにより、ブッシュがラムズフェルドを強制的に辞任させ、代りにベイカーを国防長官に任命し、われらをイラクから引っ張り出すことになったとしても、驚きはしないだろう。76歳にしては、はつらつとしているベイカーは、この役目に興味を示していないが、ブッシュ大統領と初代のブッシュ大統領の両方から要請されれば受けるかもしれない。引き続き注目である。
−ジョージ・パッカード
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