最終更新: 2008/08/30 15:25

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Inside America

アメリカ政治報告

(This report is also available in its original English version.)

ジョージ・パッカード氏

ジョージ・パッカード氏略歴
国際大学学長、ジョンズ・ホプキンズ大学高等国際問題研究大学院(SAIS)教授、
アジア財団理事、日米財団会長

1956年駐留米軍少尉の時、初来日。東京大学社会科学研究所に留学。63〜65年ライシャワー駐日米大使の特別補佐官。79年からワシントンのジョンズ・ホプキンズ大学高等国際問題研究大学院(SAIS)学長を務める。94年4月新潟県南魚沼郡大和町の国際大学学長に就任。98年3月日米財団の会長に就任。米国を代表する知日派の1人。

ワシントンリポート Dec. 2006

ブッシュ大統領は、中東民主化という彼の聖戦の中で、相変わらずおろかで悲惨な間違いを犯し続けている。今では、ほぼすべてのアメリカ人が、イラクに安定した民主主義を根付かせようとの試みが失敗したことを知っている。すべての人とはつまり、ブッシュ以外ということだ。

彼をこの混乱からスマートに脱出させる最後の頼みの綱に思われたのは、超党派の“ベイカー・ハミルトン委員会(訳註:「イラク研究グループ」)”による提言だった。この報告書は、公式には12月6日に発表されるが、主要な部分は、すでにマスコミに流れている。

委員会は、米軍14万の約半数を、2008年半ばまでにイラクから撤退させ、残る7万を顧問という形でイラク組織に組み込むことを提案するはずだ。この提案は、初代ブッシュ大統領の親しい友人でもあるジェームズ・ベイカーの主導により編み出されている。現大統領ブッシュが、この共和党民主党双方にとっての悪夢を完ぺきに毅然(きぜん)と終わらせることができるようにその道筋を示したものだ。
共和党は、この戦争問題が2008年11月の大統領選までに終わることを心底望んでいる。2006年11月の中間選挙の結果が、イラク戦争政策への不信任をはっきり示したものだときちんと理解したからだ。
民主党も戦争がなくなってくれればいいと願ってはいるが、自分たちがほうほうの体で逃げ出したとは思われたくない。 アメリカ社会は、「きょうまでに2,881人の兵士が命を落とし、2万1,000人以上が負傷した。すでに失われている大義のために、これ以上たった1人のアメリカ人の命も奪われてはならないはずだ」 と問いただしている。

だが、またもやジョージ・ブッシュは事態を把握しそこねた。ベイカー・ハミルトン提言が公表される前だというのに、すでにその中心となる提案をきのう拒否したのだ。「この潔い撤退という考え方は、単純に非現実的で受け入れる余地がない」。そして、その2日前には、リガで 「わたしがするつもりのないことが1つある。目的が達成される前に戦場から兵を引き上げるということだ」と発言した。

ブッシュの癖を良く知る人々は、大統領が政治家の真骨頂であるうそやはったりをかますのが得意なことを知っている。ラムズフェルド国防長官を更迭するまさにその日まで、決してそんなことはしないと米国民に言い続けたくらいなのだ。楽観主義者たちは、彼の現在のタフ路線は、今後おそらく行われる兵力の漸次縮小までの単なる一時しのぎでしかないと考えたがっている。

しかし実際は “いつもワガママ”なブッシュが、自分は神の声を聞いており、運命はこの作戦に味方するといまだに信じているという可能性の方が高いだろう。この考えに沿えば、彼にとっては、2008年の共和党の勝利などどうでもよく、自らの戦略が成功すると確信し続けていることになる。自分に自信が持てないこのジュニアにとって、ジェームズ・ベイカーを通して、父親のアドバイスに屈服するのは究極の屈辱ということなのだろう。

パパブッシュの古くからの共和党仲間は、ショックと絶望を隠せないでいる。彼らには、ホワイトハウスがその縫い目からバラバラになっていくように思えるのだ。スティーブン・ハドリー国家安全保障担当補佐官が書いたイラクのマリキ首相に関するメモが漏れたが、これは、ホワイトハウスの権力中枢部に不実なタレこみ屋がいることを示している。メモは、マリキ首相には、民兵組織に牛耳られた自らの狭苦しい政治基盤から自由になるための“政治や安全保障についての手腕”がない可能性があると警告している。

ベイカー・ハミルトングループによる別の提案としては、シリアとイランとの直接対話を勧めてくるだろう。ジェームズ・ベイカーは両国の代表と個人的に面談しており、このやり方でいけば、イスラエル - パレスチナ情勢を含む中東問題に関する重要な協議を開催する道が開けると信じている。ベイカー自身が目的達成に向け、移動大使の地位を受け入れるかもしれないとの憶測もある。

しかし、ブッシュが、委員会報告を見くびれば見くびるほど、ベイカーがその下で支える可能性も薄らぐだろう。彼は完ぺきな現実主義者で、沈みかけている船に飛び乗るようなことはしないからだ。

最近、ワシントンで広く話の種になっているある気になるうわさがある。わたし自身は、それが実現するとは思えないのだが、まあとにかく、こんな内容だ。ブッシュは、イラクの進路を変更しなければならないと決断する。これにチェイニー副大統領は猛烈に反対し、健康上の理由という名目で辞任に追い込まれる。それを受けて、ブッシュはジョン・マケイン上院議員を副大統領に任命し、イラク問題に関してタカ派の彼が、おそらくすんなりと2008年の大統領選を狙う。共和党がいまだ上院の過半数を占めている2006年の間なら、彼は簡単に上院の指名承認を受けられる。さらにおびただしい数のアメリカ兵がイラクに送られるだろうというものだ。

一方で、イスラエルの影響を受けているアメリカのメディアは、イランとの対話に反対する姿勢を見せ始めている。イスラエルは、自分たちの存在自体を脅かすイランの核装備をアメリカの軍事力によって、たたきつぶしてもらいたいのだ。ペンタゴンが空からの攻撃を行う際の有事協力体制を整えていることはよく知られている。この種の攻撃を支持するユダヤ系のコラムニストたちは、もしアメリカがイランと対峙(たいじ)しないならば、イスラエルが独自にイランへの核攻撃をしかけるしかないと不気味な警告を発する。これが第3次世界大戦の始まりとなるのは明らかだろう。状況を見守る人々の中には、ブッシュが自らの救世主的な使命を全うすべくこの道を選択するのではないかと心配する者もいる。

しかしどう考えても、アメリカに住むユダヤ人の大半はきょう付けのニューヨークタイムズの社説に近い意識を持っているのではないかと思われるのだ。「大統領の顧問たちは、イラクに関する厳しい真実をすべてできるだけありのままに彼に伝えなければならない。何らかの手立てを講じるための時間がほとんど残されていないことを伝えねばならないのだ。この政権は、外交政策においてすさまじいスケールの大失態を次々と生み出している。そして歴史は、大統領が警告のベルを聞かなかったことと、ほかの多くの者がそのベルを大きく鳴らさなかったことの両方を忘れないだろう」。 そして、これが2003年当初、イラク攻撃を支持した新聞から出ている言葉なのだ。

−ジョージ・パッカード

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