ジョージ・パッカード氏略歴
国際大学学長、ジョンズ・ホプキンズ大学高等国際問題研究大学院(SAIS)教授、
アジア財団理事、日米財団会長
1956年駐留米軍少尉の時、初来日。東京大学社会科学研究所に留学。63〜65年ライシャワー駐日米大使の特別補佐官。79年からワシントンのジョンズ・ホプキンズ大学高等国際問題研究大学院(SAIS)学長を務める。94年4月新潟県南魚沼郡大和町の国際大学学長に就任。98年3月日米財団の会長に就任。米国を代表する知日派の1人。
ワシントンリポート Feb. 2007
日米の2プラス2協議が延期になったのは、ブッシュ政権内のイライラが募っていることの証しだ。イラク戦が間違いだったと言い、沖縄の普天間基地移設は日本のやり方で進めるべきだとする久間防衛大臣のスタンスにホワイトハウスは怒っているのだ。
実際のところ、大部分のアメリカ人が久間氏と同意見だし、ホワイトハウスもそれは承知している。残念ながら、ブッシュはそれを認めようとしないが。しかし、あるいはだからこそ、中東での自らの暴挙に、イギリスとともに同調してくれたもう一方の大国に食ってかかっているのだ。
日米関係の専門家は、久間氏の発言を喜んで、日本のほかの閣僚たちもこの戦争への検証批判モードに加わってくれればいいと考えている。ブッシュのイラクへの“大増派”はほぼ確実に失敗する。そして今年(2007年)の7月までには、米国内で完全撤退 - その結果何が起こるにせよ - を求める声が、議会を戦争資金カットへ追い込むかもしれないのだ。
骨の髄から生粋の共和党員であるバージニアのジョン・ワーナー上院議員やネブラスカのチャック・ヘーゲル上院議員などが戦争反対の主導的立場をとっている。これは、ブッシュ右派の基盤に深刻な亀裂が入っており、同時に、彼の中東におけるネオコン戦略が崩れてきていることの表れだろう。ヒラリー・クリントン上院議員が、遅ればせながら反戦派の仲間入りをしようとしていることからも、いかに世論が変化したかがわかる。クリントンは、イラク戦の資金拠出法案に賛成したし、ついこの間まで撤退を求める声を上げることを控えていた。今彼女は、この判断ミスを必死に穴埋めしようとしている。バラク・オバマ上院議員が、反戦感情の波に乗って、2008年夏の民主党大会を制するのを阻止するためだ。
けれども今月は、日米関係について特筆すべきある話があるのだ。俳優で映画監督のクリント・イーストウッドが、1945年2月の硫黄島の戦いに関する2本の映画を制作した。Flags of Our Fathers (邦題 『父親たちの星条旗』」)と 『硫黄島からの手紙』(原題 Letters from Iwo Jima)である。この、1つの戦争をそれぞれの側の兵士たち個々の目を通してとらえ、2つの映画に仕上げるという手法は、この国では前代未聞である。さらには『硫黄島からの手紙』は、アメリカで日本兵が“我々と同じ”人間として描かれた初めての作品なのである。
第2次世界大戦が終わって62年、日本軍人に対するアメリカ人のイメージは、大部分が戦時中、アメリカ軍によって広められたプロパガンダ的風刺をそのまま模したものだった。ジョン・ダワーの名著 『容赦なき戦争』(War without Mercy:New York, Pantheon Books, 1986年)には、米軍がフランク・キャプラ監督に、アメリカの愛国心を奮い立たせ、長引く孤立主義政策を乗り越えるための一連の映画制作を依頼した様子が書かれている。そうしてできたものの1つが、日本人を個々のアイデンティティーを欠いた民族として描いた『汝(なんじ)の敵を知れ - 日本』(Know Your Enemy)だった。
「個人の心を持たない従順な大衆であり、唯一その集団意志は突飛で狂信的」、 「歴史と死んだ祖先の亡霊に翻弄(ほんろう)され、情緒の糸をピンと張り詰めて、盲目的で過酷な国家の野望に突き動かされている」 - 日本人はこういった形で描かれてきたとダワーは書いている。この映画の日本兵は、「生まれた時から闘い、祖国のために死ぬことを教え込まれ、鍛え抜かれた誇り高く有能な戦士であると同時に“狂犬”のように野蛮で残忍」である。
終戦時、こういったイメージをすっかり払しょくするのは不可能だった。ある意味では、これらは、日本兵の、というよりも日本人全体の姿としてアメリカ人の集合意識に刻まれた。
貿易摩擦が顕著になった80年代、ジェイムズ・ファロウズやカレル・バン・ウォルフレンといった日本異質論者が、アメリカに対する“日本の脅威”を唱えた時、こうした古いイメージは、その主張の色づけとして使われたのだった。
だからこそ、イーストウッドがこの映画に登場する日本兵と、彼らの家庭や家族に対する愛を思いやり深く見つめ、彼らを、時に戦争という狂乱の最中であっても良識を備えた存在として描いている点は目を見張るばかりだ。最新のニューヨーク・レビュー誌で、イアン・ブルーマはこの作品を最高傑作とたたえている。
つまり、アメリカの人々は真珠湾から実に66年後にしてやっと、的確で現実味のある日本人像を見せられたということだ。これまでにないことで、祝福に値する。この映画は、多くの観衆を集めるだろうし、もしかしたら、栄えある賞のいくつかもとるかもしれない。素晴らしい偉業だとわたしは思うのだ。
−ジョージ・パッカード
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