ジョージ・パッカード氏略歴
国際大学学長、ジョンズ・ホプキンズ大学高等国際問題研究大学院(SAIS)教授、
アジア財団理事、日米財団会長
1956年駐留米軍少尉の時、初来日。東京大学社会科学研究所に留学。63〜65年ライシャワー駐日米大使の特別補佐官。79年からワシントンのジョンズ・ホプキンズ大学高等国際問題研究大学院(SAIS)学長を務める。94年4月新潟県南魚沼郡大和町の国際大学学長に就任。98年3月日米財団の会長に就任。米国を代表する知日派の1人。
ワシントンリポート June. 2007
ブッシュ大統領の望み通り、連邦議会が、アメリカ軍撤退のはっきりした期限を切ることなしに、イラク戦争の予算を承認したにもかかわらず、2007年5月は、6年以上に及ぶブッシュ政権の全任期中最悪の月だった。
まずはじめに、ブッシュが決めた米軍の増派は、イラク情勢を改善するはずのものだったのに、この月は、2007年中で米軍が一番多く犠牲者を出した月となってしまった。意識的かどうかはともかく、アメリカの新聞やテレビは、戦いや流血といった壮絶なシーンを交えて、この後退について事細かに報じたのだった。
これまで従順に戦争を支持してきた共和党議員たちが、チャック・ヘーゲル上院議員を先陣に、かつてないほどの数でひるがえっている。もしブッシュが、例えばウサマ・ビン・ラディンを捕まえるか、殺すかするなどの大々的な勝利を収めなければ、さらに多くの共和党員が戦争について声高に批判しはじめることだろう。
ブッシュが、新たにルート中将を、政権のイラク・アフガニスタン情勢に対する“戦争監督(War Czar)”として任命した時、世間は、これをあざけりを持って迎えた。なぜブッシュ自らがこの任務につかないのかと問う声が上がったのだ。あるいはなぜ、スティーブン・ハドリー国家安全保障担当補佐官がやらないのかと。しまいには、ルート自身が、増派という決断に疑問を呈するようにさえなった。ペンタゴン、国務省、国土安全保障省、それぞれの働きを調整することのできる人間が誰もいないような状態なのだ。
世界銀行(国際復興開発銀行)を巻き込んだポール・ウォルフォウィッツのスキャンダルもブッシュ政権をさらに不安定にした。ブッシュに“ウォルフィー”と愛称で呼ばれたこの前国防副長官は、自分の恋人に13万5,000ドル(約1,600万円)の給与に加え、新たに6万ドル(約700万円)の大幅な昇給を与えていたことで、世界銀行の倫理規定に違反したのだ。彼がイラク戦を企てた首謀者の1人だったことは周知の通りで、世界銀行のヨーロッパ出身の同僚たちには、彼のどんなに小さな過ちにも飛びつく準備ができていた。
「切れる」知識人としてのウォルフォウィッツの名声は、しかし分不相応なものだった。ある匿名情報筋は、彼の管理能力についてこう評している。「彼には難しいことは無理なのさ!」。アメリカの日本占領の成功を盾に、イラク侵攻と占領を言い張ったウォルフォウィッツだったが、彼には、負かされた2つの国の間の大きな違いが全く理解できていなかったのだ。
ウォルフォウィッツは、イスラエルの国益をアメリカのそれと同一視し、ブッシュ政権がイスラエルを支援するためにイラクを攻める後押しをしたとの非難を呼んだ。インターネットには、中東専門家たちがウォルフォウィッツやリチャード・パール、ダグラス・フェイスといったネオコン族をイスラエル擁護のかどで告発する書き込みがあふれている。ジェイ・ロックフェラー上院議員が率いる上院情報特別委員会は、前国防次官でウォルフォウィッツ配下のフェイスが、いかにしてアルカイダとサダム・フセインを結びつける情報をねつ造し、イラクのいわゆる大量破壊兵器について、うそをついたのかを調査している。この話題は、非常に危険だ。取り上げる者が反ユダヤ主義という非難を浴びるからである。
ブッシュにとって何よりも一番みっともなかったのは、アルベルト・ゴンザレス司法長官に関する新情報の流出だ。それによると、2004年3月10日の夜、当時、大統領法律顧問だったゴンザレスとアンドリュー・カード大統領主席補佐官は、極秘任務を遂行するため、ジョージ・ワシントン大学病院に向かったとされている。胆石性すい炎で入院し、3月9日に胆のう摘出手術を受けたジョン・アシュクロフト司法長官が集中治療室に入っていた。ゴンザレスとカードは、アシュクロフトとFBIが非合法だとした、米国民に対する“令状なしの盗聴”プログラムを更新するよう彼に迫ったのだった。
彼の配下だったジェームズ・コメイ副長官と同様、アシュクロフトは署名を拒否した。コメイとFBIのロバートミューラー長官は辞任を示唆し、ブッシュは譲歩して、最終的にこの極秘プログラムを撤回することに同意したのだった。
一連の出来事は、まるで喜劇オペラで、今一度ホワイトハウスのメンバーを間抜けに見せたのはいうまでもない。ウォーターゲート事件の記憶が一気によみがえる。当時の政権も悪らつで無能で大馬鹿に見えたものだった。
今、ニューヨーク市のマイケル・ブルームバーグ市長が、第三党から独立候補として大統領選に打って出るという話が出ている。今回お話ししたようなデタラメがさらに続けば、アメリカの選挙民はワシントンの“一斉大掃除”が必要であると身にしみることだろう。この続きはまた後ほど。
−ジョージ・パッカード
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