ジョージ・パッカード氏略歴
国際大学学長、ジョンズ・ホプキンズ大学高等国際問題研究大学院(SAIS)教授、
アジア財団理事、日米財団会長
1956年駐留米軍少尉の時、初来日。東京大学社会科学研究所に留学。63〜65年ライシャワー駐日米大使の特別補佐官。79年からワシントンのジョンズ・ホプキンズ大学高等国際問題研究大学院(SAIS)学長を務める。94年4月新潟県南魚沼郡大和町の国際大学学長に就任。98年3月日米財団の会長に就任。米国を代表する知日派の1人。
ワシントンリポート Sep. 2007
ついにその時はやってきた。
過去40年以上もの間、イスラエルのロビー活動が、アメリカの外交政策決定に及ぼす過剰で不健康な影響については、政治家はおろか、外交官も主要メディアのジャーナリストも強いて口に出してこなかった。この話題を持ち出すことは、ユダヤ系団体から手厳しい非難を浴びることを意味しており、“反ユダヤ”の烙印(らくいん)を押されて、さまざまな報いを受け、下手をすれば、そのキャリアに終止符を打つはめになりかねなかったからだ。
アメリカの外交政策についてくわしい人なら誰でも、連邦議会や国務省、ペンタゴン、メディア、そして歴代の大統領が、イスラエルを特別扱いしてきたことを知っている。イリノイ州のポール・フィンドレイ議員のように、勇敢にもイスラエルとの因縁について声を挙げた国会議員も、かつていたにはいたが、こういった人々は、次の選挙で、ユダヤ系の個人や団体から潤沢な資金を調達した反対候補と対峙(たいじ)することとなり、大抵は負けたのだった。
ジョン・ミアシャイマーとスティーブン・ウォルトが共同執筆した新刊『イスラエル・ロビーとアメリカの外交政策(The Israel Lobby and U.S. Foreign Policy)』が9月4日に公式発売となる(が、すでに何千部かが出回っており、わたしの手元にも1冊ある)。著者の2人はともに非の打ちどころのない実績を持ち、高く評価されている学者である。ミアシャイマーはシカゴ大学で国際関係論を専門に教えており、数多くの著作が出版されている。ハーバード大学、ケネディ行政大学院で教べんを執るウォルトは、昨年まではここの学部長だった。
2人は、2006年3月にこのテーマで論文を書いたが、国内でこれを掲載してくれるような機関紙が見つからなかった。あまりのリスクに、誰も手をつけたがらなかったのだ。そもそも論文の寄稿を依頼したリベラル誌のアトランティックでさえ、これをボツにしたため、彼らは、ロンドン・レビュー・オブ・ブックス誌に記事を持ち込み、ここが掲載決断に踏み切ったのだった。この論文は、ケネディ・スクール刊行物としてもインターネットに掲載されたが、ユダヤ人の批評家たちから大いなる怒りを買ったため、ハーバード側は、即刻記事から大学名を引っ込めている。
プリント版が米国内で出版されなかったにもかかわらず、この論文に周囲は騒然となった。ジョンズ・ホプキンス高等国際問題研究大学院教授のエリオット・コーエンのようなユダヤ人批評家は、この論文を-すでにお察しの通り- “反ユダヤ主義”と糾弾した。ほかの連中は、情報の出どころとその信ぴょう性について疑問を投げかけた。
一連の論争によって、著者の2人は自らの主張の正当性を固持し、この話題をアメリカで大きく取り上げて公に議論すべきだとの思いをますます強くした。こうして彼らは、元のテキストを拡大し、これを本として出版してくれるニューヨークの版元、ファラー・ストラウス&ジロー社を見つけたのだった。
一般発売日が来る前から、この本は嵐のような論議を巻き起こした。8月には、権威ある Chicago Council on World Affairs*がジョン・ミアシャイマーを秋の会合に招いて、その本について討論する運びとなったのだが、ユダヤ人批評家連中の反対に遭い、説明もないまま、ミアシャイマーへの招待は取り消された。シカゴでもっとも権威ある大学の一流の学識者が門前払いを食ったのである。
ユダヤ人批評家たちは、各地の大学や委員会で2人の主張を抹殺しようと躍起になっている。それがかなわない時には、ほかの批評家たちを同調させて、彼らの仕事に対する信用をおとしめようとする。あの、ニューヨークの米外交問題評議会がこの問題にどう対処するのかが見ものである。ここの会長はユダヤ人なのだ。
2人の著者が展開する議論は、実に率直でシンプルであり、綿密な脚注に支えられている。彼らは、イスラエルが1948年の建国以来、アメリカから受けてきた経済、軍事、外交面での著しい支援について説明したうえで、冷戦時代には、それが正当化されたかもしれないが、今となっては、これがアメリカの中東政策に害となるだけでなく、イスラエルにとっても危険だと結論している。この支援が、戦略的にも道徳的にも正しくないというのだ。イスラエルのロビー活動がどのように行われるのか、またそれがどうやってアメリカをイラク戦の遂行へと駆り立てたのかが、ここではつぶさに解説される(ポール・ウォルフォウィッツの名前は13回も出てくるのだ!)。さらに2人は、わざわざ自分たちが反ユダヤ主義者ではないと否定までしてみせる(もっともこの汚名を着せられることになるとは百も承知だろうが)。
「今日アメリカがイスラエルと親密な関係にあり、特にその政策いかんにかかわらず、肩入れし続けていることは、アメリカ国民の安全と繁栄にとって、ためにならない。全く逆である。イスラエルへの無条件の援助は、他の同盟国との関係を損ね、アメリカの英知と倫理観に疑問を投げかけるものである。次の世代の反米過激派を増長させることとなり、ひいてはこの不安定だが、極めて重要な地域に対するアメリカの取り組みを難しくする」 と彼らは主張する。
名の知られた学者の中で、あえてここまで告発した人々はこれまでいなかった。
ここからが正念場である。
*シカゴ国際問題評議会 (Chicago Council on Global Affairs) のことか?
−ジョージ・パッカード
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