ジョージ・パッカード氏略歴
国際大学学長、ジョンズ・ホプキンズ大学高等国際問題研究大学院(SAIS)教授、
アジア財団理事、日米財団会長
1956年駐留米軍少尉の時、初来日。東京大学社会科学研究所に留学。63〜65年ライシャワー駐日米大使の特別補佐官。79年からワシントンのジョンズ・ホプキンズ大学高等国際問題研究大学院(SAIS)学長を務める。94年4月新潟県南魚沼郡大和町の国際大学学長に就任。98年3月日米財団の会長に就任。米国を代表する知日派の1人。
ワシントンリポート Apr. 2008
民主党の大統領候補指名を争うバラク・オバマとヒラリー・クリントン、住宅金融業界の危機、そしてイラクからの悪い知らせ。メディアの関心が、こういったことに向かっていたことを考えれば、3月22日の台湾の馬英九総統の就任が、ワシントン高官の間で、ほとんど注目されなかったのも不思議ではない。しかし、この選挙がもたらす影響は、実はとてつもなく大きい。それが今になって少しずつ広がり始めている。
こちらの保守派と業界の間では、もう長いこと、中国政府と台湾との間に何らかの軍事的衝突のようなものが起こるのではないかという憶測が流れている。台湾を守るために、もっと船が必要だという主張に沿って米海軍の予算が確保され、増額までされたほどである。ごく内輪レベルだった中国の人権侵害を訴える批判層は、大きく成長した。国際関係について真剣に論じる機関紙は、太平洋地域の覇権をめぐって、アメリカ海軍と増大する中国艦隊との間に起こる将来的な対決について、しばしば言及している。多くのシンクタンクやロビイスト、そして“中国通”たちが、勢いを増す中国軍の脅威について、一貫して指摘し続けているのだ。
台湾の将来に関して言えば、アメリカは脅威にさらされているこの国を決して見捨ててはならないということが常に言われている。なぜなら、中国の人々が、唯一初めて手にする民主主義が、この台湾で芽生えているからである。民主主義の原則のもと、自由で開かれた選挙システムを持つ台湾国民が、その民主主義の制限を意味する中国本土との統合を認めるなどということは決してないだろうというのが大方の見方である。
イラク戦でのひどい采配(さいはい)ミスによって面目を損なったネオコンは、いまだ強力な“タカ派”のうちの1つであり、中国政府に対する批判勢力でもある。彼らが、2000年にニューヨーク・タイムズその他の新聞に出した全面広告で、本土からの攻撃があった場合には、台湾の独立を保証するよう、クリントン政権に求めたことを忘れてはならない。この広告に署名した人物の中には、ドナルド・ラムズフェルドやリチャード・パール、ポール・ウォルフォウィッツがいた。その理由のすべては明らかではないが、どうやら彼らは、膨れ上がったペンタゴンの予算を連邦議会に削減させないため、世界のあちこちで起きている緊張状態を緩和させまいとしているようなのだ。
2001年9月11日以降、ネオコンの対中国批判がイラクのサダム・フセイン打倒に取って代わった時期があった。しかし、彼らの反中国感情は決して消え去ったわけではなく、今日再び盛り返してきている。今月起こったチベットの抗議活動を中国が弾圧したことで、彼らががぜん勢いづいてきた。
そこに馬英九の登場である。彼は、ハーバード法科大学院出の知性派で、完ぺきな英語を話し、大物アメリカ人の友をたくさん持つ男である。選挙キャンペーンにおいて、彼の党は北京ともっと近い関係を築くことを約束し、中国本土から台湾への渡航者の受け入れや貿易、投資の拡大をうたい、過半数強の支持を受けて、馬は総統に就任した。
ワシントンの反中国勢力は度肝を抜かれている。民主台湾の民意が本土との和解を望む。彼らが決して思いもよらなかったことが起こっているのだ。
これによって、台湾が、最終的に例えば香港とのような、ある種の取り決めのもとで、名目上、中国の中に組み込まれていくことになるのかどうかと見るのは時期尚早だろう。けれども、ワシントンでは、すでに新たな動きが出てきている。アメリカ海軍艦艇へのさらなる支出を主張する声がねじふせられたのだ。
もっと先に目をやってみれば、もし、もう1人のハーバード法科卒業生であるバラク・オバマが11月に大統領に選ばれるとすると、彼が、台中と協力して新たに何らかのきずなを作り上げようとすることは十分に考えられる。
中国が核兵器でアメリカを攻撃することができるようになった今、台湾を守るために、アメリカが進んで中国側と戦争をすることなどあり得ないということを、ここでは秘して誰も語らない。確かに、戦争は何かのはずみで始まってしまうものなのかもしれない。が、しかし、台湾と中国が貿易や投資、観光などを通して、もっと交流を深めれば深めるほど、不慮の戦争は起こりにくくなる。
日本とアメリカ、この両国が賢明であれば、何としてでも、馬総統に中国当局との友好関係を強化するよう働きかけることだろう。
−ジョージ・パッカード
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