ジョージ・パッカード氏略歴
国際大学学長、ジョンズ・ホプキンズ大学高等国際問題研究大学院(SAIS)教授、
アジア財団理事、日米財団会長
1956年駐留米軍少尉の時、初来日。東京大学社会科学研究所に留学。63〜65年ライシャワー駐日米大使の特別補佐官。79年からワシントンのジョンズ・ホプキンズ大学高等国際問題研究大学院(SAIS)学長を務める。94年4月新潟県南魚沼郡大和町の国際大学学長に就任。98年3月日米財団の会長に就任。米国を代表する知日派の1人。
ワシントンリポート July. 2008
かつて、米元下院議長のトーマス・“ティップ”・オニールは、「すべての政治は地方にある」として、選挙年における外交の重要性を一蹴(いっしゅう)したが、時代が進むにつれ、彼の言葉が大枠で正しいものであったことが明らかになってきた。しかし、ことし(2008年)、マケイン対オバマの争いは、外交問題で真剣な物議を醸し、深い亀裂を生みそうな気配である。
一番の問題は、ブッシュが任期終了まで、イランとその核計画に対する強硬姿勢を貫くのかどうかということだ。チェイニー副大統領を取り巻く“ネオコン一派 ”が、大幅に力を失ったとはいえ、ことし中のイランに対する軍事攻撃を期待しているのは間違いないし、世論調査で、オバマのリード(現在は8〜10%)が広がれば広がるほど、連中は取り返しのつかなくなる前に、さっさと事を起こそうと焦るだろう。オバマは、イランの指導者たちと前提条件を持たずに協議するつもりでいると公言しているのだ。
もしもブッシュが、アドバイザーたちの賢明な言葉に耳を傾ける、もっと“まとも”な大統領だったら、彼のイランに対する威嚇も、もう少し穏やかな感じで受けとめられるのかもしれない。けれども、彼はそうではないし、アドバイスは、天国の父、つまり神からもらうなどと言っている始末なのだ! 神が今、彼にどんなアドバイスを与えているのかは、神のみぞ知るである。しかし関係者たちは、ブッシュが、イランをイラクよりもさらにひどい状態にするのではないかと心配している。この心配を裏づけるように、CIAとペンタゴンがテヘランの現政権を揺さぶるべく、イラン国内での秘密工作に、4億ドル以上の経費を注ぎ込んでいるとの報道が週末にかけてあった。
7月17日付最新の『ニューヨーク・レビュー・オブ・ブックス』のトマス・パワーズによる記事が非常に面白い。ニューヨーク・レビューは、米国のリベラルなユダヤ系の意見を反映しており、パワーズはこれまで、戦略・情報問題について、幅広く執筆してきている。イランに対する軍事行動をとることに彼は強く反対する。いわく、「米イラン間の対立をつぶさに見てきた専門家は、ブッシュ政権の脅しは口先だけで、アメリカには、イランの核施設を本格的に空爆する軍事予算もなければ、国内での支援も海外の同盟国からの合意もないという。イランを侵攻・占領などできないことは言うまでもない」。
さらに興味深いのは、記事の中で、彼がロバート・ゲイツ国防長官や統合参謀本部議長であるマイク・マレン海軍大将、その他ペンタゴンのトップたちが自分と見解を同じくしていると書いていることで、それが本当ならば、攻撃など不可能となる。いや、そのはずなのだがどうなのだろう。ブッシュが依然、何らかの裏工作をしており、これが新たな惨事につながるとのおそれは消えてはいない。
ジョン・マケインにとって、これは大問題だ。彼は、ほとんどすべての方策において、着実にブッシュ路線を踏襲する方向に進んでおり、ラムズフェルド前国防長官には批判的だったものの、イラク戦を全力で支援しているからである。
今後、数週間以内に、バラク・オバマがイラク、アフガニスタンを訪問するので、注目していたい。もしかしたら、パキスタンにも足を伸ばすかもしれない。週末にかけて、彼の事務所は、オバマがじきにヨルダン、イスラエル、ドイツ、フランス、そしてイギリスを訪問することを明らかにした。驚いたことに、その中に、イタリアとアイルランドという、これまでアメリカにおびただしい数の勤勉な移民を提供してきた2つの国は含まれていない。これらの移民のほとんどが、民主党候補を支持すると考えられているにもかかわらず、である。安全上の理由から、彼のイラク訪問については極秘扱いのままだが、米軍部隊によるフレンドリーな出馬支援がアピールできるよう、入念に計画されるはずである。オバマは、徐々にイラクからの米軍の即時撤退要求への姿勢をゆるめてきており、今では通常の安全な方法での撤退を呼びかけている。
北朝鮮が、6月27日に寧辺の冷却塔を破壊したことについては、こちらでそれほどの反響はなかった。ブッシュ・ライス・ヒル組が、必死で外交“スコア”を望む一方で、チェイニーは相変わらず北朝鮮側の不誠実な行動に目を光らせている。北朝鮮がその公約を果たしたのかどうかをわれわれが知るのは、おそらくブッシュがテキサスへと去ってからしばらくしてのことになるだろう。
つまり、選挙戦はこんな感じになっている。オバマにとっては、自分に外交政策と軍事的決断において信頼されるに足る能力と経験・見識があるのだと世間を納得させることが必要だ。決して怒ったり皮肉っぽく振る舞ってはいけない。マケインは、国家安全保障の分野では大きく水をあけているが、込み入った外交問題についても、十分な知識があることを示さねばならない。何はさておき、彼の来年1月時点で72歳という年齢に対する不安がここにきて浮上している。そして、彼が名前を忘れたり事実関係を間違えるたびに、この不安が増しているのだ。
主要候補者2人のうち1人について、これほど知らないことだらけというのは、1960年の民主党候補だったジョン・F・ケネディ以来だ。外交政策の分野において、バラク・オバマは懸命に頑張らねばならない。
−ジョージ・パッカード
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