最終更新: 2008/12/05 20:05

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Inside America

アメリカ政治報告

(This report is also available in its original English version.)

ジョージ・パッカード氏

ジョージ・パッカード氏略歴
国際大学学長、ジョンズ・ホプキンズ大学高等国際問題研究大学院(SAIS)教授、
アジア財団理事、日米財団会長

1956年駐留米軍少尉の時、初来日。東京大学社会科学研究所に留学。63〜65年ライシャワー駐日米大使の特別補佐官。79年からワシントンのジョンズ・ホプキンズ大学高等国際問題研究大学院(SAIS)学長を務める。94年4月新潟県南魚沼郡大和町の国際大学学長に就任。98年3月日米財団の会長に就任。米国を代表する知日派の1人。

ワシントンリポート Sep. 2008

11月4日の選挙を共に戦う副大統領候補をアラスカ州知事のサラ・ペイリンにする、というジョン・マケイン上院議員の選択には、ワシントンきってのイヤミな政治ウォッチャーたちもがくぜんとした。外交政策経験もワシントンでの実績もほぼゼロに等しく、最も重要でない州の1つとされる場所の知事をわずか2年間務めただけの44歳の女性である。通常の考え方からすれば、これは非常識な決断だ。彼女が抱える66億ドル(約7,100億円)の予算は、ワシントンでは、はした金のようなものである。

確かに彼女の笑顔はすがすがしい。さらに福音派のキリスト教徒で堕胎反対派であり、狩りもすれば釣りもする、筋金入りの全米ライフル協会会員で、5人の子を持つ“ホッケーママ”*でもある、といった資質が、一部の票を勝ち取ることはあるだろう。

しかし、マケインが彼女を指名した真の目的が、バラク・オバマに負けてがっかりしている民主党ヒラリー・クリントン支持派の女性票を集めることにあるのは明らかだ。わたしに言わせれば、この思い込みは勘違いというものである。これではまるで、女は常に、ほかの女のところへと群れて流れていくお馬鹿さんだと言っているようなものではないか。ヒラリーは今後のキャンペーンで、この思い込みをとことんやりこめることができるだろう。そして、民主党候補に忠実であるよう自分の支持者に訴えるはずだ。

マケインが犯した真の過ちは、バラク・オバマが余りに経験不足なため、大統領着任その日に即最高司令官になることはできない、という自身の主張を骨抜きにしてしまったことだ。きのうで72歳となり、4度のガンを患っているマケインが本当にそう信じているならば、どうして自分の後継者となる可能性のある人物に、どう考えてもオバマより資質の劣ると思われる女性を選んだりできるのか?

とはいえ、わたしは選挙戦は接戦になると思う。いまだ多くのアメリカ人が、黒人候補に投票する用意があるかどうかとの世論調査にうそをついている。彼らの内に深く染みこんだ人種的偏見は、投票所の陰で浮かび上がることだろう。

もう1つの問題は討論だ。マケインとオバマの間では9月26日、10月7日、そして15日と3回の大統領選挙討論が行われる。弁護士として経験を積んだオバマは、相手候補より明らかに論理的で、多くの情報を備えているに違いない。しかし彼は、ベトナム戦争中、5年半捕虜だったマケインの英雄魂を侮辱しないよう気をつけねばならない。撃ち落とされた戦闘機パイロットで捕虜になったということが、アメリカ大統領になる資質としてベストなものとはかぎらないと、ほかの評論家連中が指摘することはできても、オバマにはできない。圧倒的多数の米国民がマケインの勇気に敬意を抱いており、それがないがしろにされれば、気分を害するはずだからだ。

10月2日には、副大統領候補討論会もある。問題は、ジョセフ・バイデン議員が、この5人の子を持つ若く魅力的な母親を見下すような態度を取らないようにすることだ。ここでの対決構造は、ワシントンの“事情通”である65歳の年取ったバイデンと大胆な発想と歯に衣着せぬ物言いの新顔サラ・ペイリンという、全く違った形のものになる。もしバイデンが、無礼で横柄な態度を見せたりすれば、それこそ大量の女性票がペイリン側に流れていってしまう危険があるのだ。

オバマとバイデンにとっての最善策は、国内外で問題を抱えているアメリカが今必要としているのは、彼らのコンビで実現する国内経済の建て直しと堅実な外交なのだと強調することだろう。今後、この見通しを揺るがす出来事はいくつも考えられる。ウサマ・ビン・ラディンの拘束、アメリカ本土における新たなテロ行為、イランや北朝鮮での新たな核兵器製造の兆候、イスラエルによるイラン攻撃などである。

わたしは、前に間違っていたし(民主党候補としてヒラリーがオバマを負かすと予測したのだ)、再び間違っているかもしれない。しかし、ここではっきりしているのは、オバマとマケインのどちらにとっても、11月の勝利は間一髪の差でしかないということである。これほどまでに激しく見どころたっぷりの接近戦となる大統領選は、1960年11月にリチャード・ニクソンがジョン・F・ケネディに負けて以来のことだと、これだけは自信を持って言えるのだ。

*ホッケーママ(hockey mom): 子どものアイスホッケーチームでの活動に情熱を注ぐ母親

−ジョージ・パッカード

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