
帰ってきた矢部ちゃんのカメラマン日誌
カメラマンのつぶやき

今回のカメラマン日誌は、山岡カメラマンの「水中班」日誌です。トロピカルなイメージに見られがちですが、いろいろ厳しい条件の中で撮影をすることも多いのです。そういう「水中班」の仕事をちょっとのぞいてみましょう。

2002年7月1日 フジテレビ新人アナウンサー研修日誌
水中班 … 取材撮影部で水中撮影ができる連中を勝手にこう呼ばせてもらっている。
水中撮影 … 青い空に澄んだ空、美しいサンゴにトロピカルな魚たち。そんな撮影ばかりやっているイメージ(かな?)。
だが、これは大きな間違い。最近、わたしが潜った所といえば、真冬の氷が張ったプール、真冬の夜の海、猛毒オニヒトデだらけの海、砂だらけの海と、おおよそイメージとはほど遠い。「激流の渦のそこに潜ってくれ!」なんてオーダーが来たりもする(さすがにお断りしたが)。それが現実!!
真冬の夜の海では、ガンガゼというトゲの長いウニに内ももを思いっきり刺された。激痛とともにものすごい悲鳴をあげたが、ほかのスタッフはまったく気が付かない。〈水中ではあなたの悲鳴はだれにも聞こえない...〉20年前のホラー映画のコピーのよう。こんな目にばかり遭っている水中班。自分で言うのもなんだが、好きじゃないと絶対にできないつらい仕事。
でも、トロピカルなイメージはなかなかぬぐい去れない。
そんな悲しき水中班の今回の任務は「水中から生中継をやれ」というもの。
ーーーー ほんとっすかぁ〜!? ーーーー
われわれは、VTRに収録するのが本職。生中継となると、腕のいいスタッフが多数必要になる。集まるのか? 皆それぞれ夏休み真っ最中。各自のスケジュールは? 「スタッフが集まらなければ無理!」と主張したところ腰抜け呼ばわりされた。ならば、
ーーーー やったろーじゃないっすかぁ〜! ーーーー
思い通りのスタッフが集まらなくても、意地を見せるしかない。覚悟を決めた。しかし、デスクの理解があって、ほぼ満足できるスタッフを集めることができた。
ーーーー よかったっす ーーーー
逆に言えば、失敗はできない、言い訳できない、という状況になった。
水中から生中継する番組は、8月25日(土)17:30から放送の「スーパーニュース・ウィークエンド」。この番組中に「ウィークエンド・ジャーニー」というコーナーがある。気象予報士の岩谷さんが全国規模で気象、自然などの話題を生中継でお届けするというもの。
今回の話題は、千葉県館山市。水中観光船やダイビングスポットで有名な波左間海中公園。漁業用の網にかかったマンタやマンボウをいけすに放し、シュノーケリングやダイビングで見学させたあと、海に返している。この話題を岩谷さんの水中リポートによって説明し、中継中にマンタが接近すれば最高! という狙い。
この種の生中継 … 生き物が関係する生中継は、その生き物を事前に収録しておく。本番中に現れるとは限らないから。ご多分に漏れず、今回も水中リポート付きの事前収録。水中リポートは水中カメラとリポート用の水中マスクがケーブルでつながっている。収録中にそのケーブルを引っ張るやつがいる。新米の水中スタッフが1人いたので、そいつの仕業とばかり思っていたが、よく見たらマンタがケーブルを引っ張っていた。
ーーーー ほんとっすかぁ〜! ーーーー
ものすごい力で引っ張られる!!! わたしはカメラを離せば危険はないが、リポーターはマスクにケーブルがつながっているわけで、マスクをはぎ取られる危険がある。
ーーーー こりゃマズい ーーーー
だが結局、マスクとケーブルの接続部分が引きちぎられただけで事なきを得た。ケーブル1本だめになったが、けがやそれ以上の事故にならなくて本当に良かった。水中班は常に危険と隣り合わせ。でもトロピカルなイメージはぬぐい去れない。
ドタバタと本番当日。いろいろと理由があって、水中で音声をスタッフに聞かせるための装置が不調であった。陸上のチェックではOKだったのに、水圧がかかるとだめになるということは水中機材ではよくある(かなり、たちが悪い)。結局、船上のマイクから水中のヘッドホンに音声を送れる装置だけが元気だったが、こいつがどうにも聞きづらい代物。なぜ聞きづらいかというと、自分の呼吸音が邪魔をするから。水中は「沈黙の世界」と言われるが「静寂の世界」ではない。自分の呼吸音はかなりうるさい。特にこういう状況下での呼吸音は本当に邪魔。で、どうするかというと、答えは簡単、呼吸を止める。これ本当の話。ずっと止められればよいのだが、そうもいかない。ヘッドホンに送られる情報を取捨選択。必要ない情報と判断した瞬間、呼吸する。かなり苦しい、つらい。でもやるしかない。また、岩谷リポーターの声すら聞けない状況でもあったので、事前に打ち合わせを行い、岩谷さんが指さした方向にカメラを振るという超原始的な方法で本番を迎える。
船上からヘッドホンに「本番突入」の合図。いけすの中層で浮力を保ちながら、岩谷リポーターが指す方にカメラを向ける。肺に空気を入れすぎると浮かんでしまうし、呼吸音がヘッドホンの音をかき消すので、むやみに空気を吸えない(く、苦し〜いぃ!!)。肝心のマンタは?! 近寄ってくる気配はない。結局、マンタは現れず生中継は終了した。
終了後、空気を思いっきり吸えた時は、本当に幸せいっぱい。空気がおいしい。放送は前日に撮影したマンタの映像をインサートし、評判は上々だった。
ーーーー ああ、よかった ーーーー
事故がなく終えたのが何より。機材のトラブルがなく、マンタが本番中に来てくれたら最高だったが...。自己採点で80点はつけたいところ。
水中班は結局、水中が大好き。なぜ好きかは人それぞれ。水圧がかかるのが好きな人、ボンベから供給される超乾燥空気を吸うのが好きな人、無重力が好きな人、つらいのが好きな人、などなど。結構命がけだったりするためか、撮影を終え無事に陸上に戻ってきた時の達成感は何事にも代え難い。この達成感を味わえるから、水中撮影はやめられない。
今後また仕事があれば、水中班は喜んで潜る。たとえつらい仕事とわかっていても。「好き!!!」だから。
でもやっぱり、
ーーーー トロピカルなイメージはぬぐい去れない ーーーー
取材撮影部
山岡 衛
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