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完成はいつ?〜バリ島の巨人像

「世界最大の像は?」と聞かれて何と答えるだろうか? 「自由の女神」が今のところ正しい答えだろう。ところが、長らく安泰だったこの女神像の世界一の座を脅かすプロジェクトが「水面下」で進行中だ。

インドネシア・バリ島。銀色に輝くジンバランベイを見下ろす小高い丘に鎮座する2つの像がある。1つはヒンズー教の神ビシュヌの上半身、瞑想(めいそう)しているかのような柔和な表情である。この像、一見すると鎌倉の大仏のようである。その脇には、伝説の神鳥ガルーダがバリの澄んだ青空に咆哮(ほうこう)しながら飛躍せんとする状態で固まっている。
見上げるようなこれら2つの像は世界の平和と調和を祈念するために計画された世界最大の像の一部分なのである。

1995年に始まったこのプロジェクトは、当初、順調に進み、岩盤でできた丘を削り、巨大な神殿に似せた建造物が姿を見せるに至った。しかし、ここでアジア全体の経済危機と2002年のバリ島での爆破テロに見舞われ計画が頓挫してしまった。

「資金さえあれば、あと1年あれば、完成させてみせる」とは、製作者でプロジェクトの中心的存在でもあるバリ島出身の芸術家、ニョマン・ヌアルタさんの弁。 ジャワ島のバンドゥンにあるヌアルタさんのアトリエに行ってみると、そこには巨大な手のひらが雨ざらしになっていた。爆破テロ事件以来、作業が止まっているとのこと。 観光客から古代遺跡と勘違いされることも多くなったバリ島の巨神像、完成すれば146メートルと世界一になるとのことだが、その道のりは険しい。
                                                

幻の音景色
日本には隠れ里というものが各地にある。決まってそれらには、平家の落人伝説など、人目をはばかるために外界との接触を絶ったなどという話が付随する。そしてそれぞれの里には、いにしえの都人が伝えた優雅な芸能や技能が伝わっている。

実は、インドネシア・バリ島にも隠れ里が存在する。その里の名はトゥンガナン・プグリンシンガン村という。

島の中部にある神の山、グヌン・アゴンの裾野に広がるうっそうとした森の中に埋もれるようにたたずむこの村には「バリ・アガ」と呼ばれる原住民が暮らす。数百年にもわたって、彼らは外界を遠ざけ、ただひたすらに崇拝する神々とともに悠久の時間を過ごしてきた。毎日のように神にささげる祭礼がとりおこなわれている。

彼らが伝える音景色、スロンディンという神格化された楽器が奏でる音色は、この村の祭礼を統べている。この楽器の音で祭りは始まり、そして終わるのだ。 バリ島に数多く伝わる民族楽器ガムランのうち、鉄でできているのはこの村の周辺のごく一部に限られる。微妙な音のうねりが必要なガムランの演奏にとって、残響の少ない鉄ガムランはときに金属的に過ぎることがあるが、演奏者の技量次第で、その音は神の音に変わる。


「ジュル・ガムラン」と呼ばれる11人のスロンディン奏者たちがいる。彼らは村の中で選ばれた優れた奏者たちで、村人たちのあこがれでもある。 そのジュル・ガムランのメンバーの1人、グナワンさんは神にささげるため、門外不出とされたスロンディンの音色をはじめてレプリカを使って演奏し、村の外に伝えた人である。

村に伝わるスロンディンは普段、祭礼がないときは大切にしまわれているため演奏ができず、若者の奏者が育たないという問題があった。あこがれのジュル・ガムランのメンバーになるには、相応の技量が必要であるため、練習のできない若者にチャンスはない。このため、スロンディン奏者になることをあきらめ、村を出て行く若者が増え始めた。昔とは違い、今は村の外の生活がより便利だということに若者が気づいたからだ。
後継者がいなくなることを危ぐしたグナワンさんがレプリカを作って練習機会を増やし、難解な記号で書かれていた楽譜を平易な音符に置き換えるなどの努力をした結果、若者の流出が止まり、いまでは村で熱心にスロンディンの練習をする若者の姿が目につくようになった。

これまで、村の外でほとんど演奏されることのなかったスロンディン。これからは練習を積んだ若者たちによって、ほかのガムランと同様、身近な音になるに違いない。
(坂本隆之)