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楽園を守れ〜オサガメ保護の最前線
ラブアンソロン(=ソロン港、インドネシア・パプア州)、午前7時。それまで、夜のままの姿で海面に映えていた月は、いつしか消え、南国の太陽がその力を潜めながら、張り出した白雲を照らし始めていた。

今回の取材は、オサガメの保護プロジェクト。WWF(世界自然保護基金)による保護活動の同行取材だ。内容からして簡単に取材が進むはずだったが、最初から思わぬ困難がともなった。取材ビザが下りないのである。インドネシアでは昨今、テロ事件が相次いでいるうえ、アチェ、マルク、そしてパプアと3つの地域で独立の気運が高まっており、政府としては、できるだけメディア、特に外国メディアにこうした現実を見せまいとして、これらの地域へ入ることを厳しく制限しているのである。

実は、ことし6月にも取材を試みているのだが、この時は、せっかく下りていたビザが出発前日になって取り消されてしまった。直前に日本人のフリーカメラマンがビザを持たずにアチェに入り、逮捕されたのが原因だった。こうした事情もあって、今回もビザが下りる可能性は非常に少ないといわれていたが、何度も交渉しているうちに相手が根負けしたのか、ひょんなことでビザが下り、取材に行けることになった。

保護の対象となっている「オサガメ」は、WWFの絶滅危惧(きぐ)種に指定されていて、7種類いるといわれているウミガメの中でも1属1亜種という特殊なカメで、近年、急速にその数が減っている。このカメが、ほかのウミガメと違うところは、英語名で「レザーバックタートル」といわれるように、甲羅に鱗板(りんばん)がなく、サイのようなゴツゴツとした皮に覆われていることだ。また体長も大きく、最大のもので3メートル近くなり、体重も500kg以上になる。地球上で最大のは虫類である。

しかし、太平洋全体を回遊するといわれるオサガメの生態はよく知られておらず、どれぐらいの個体が太平洋のどの辺りを回遊しているかまでは研究が進んでいない。ただ、産卵地の調査は行われており、南米のコスタリカやメキシコ、それに東南アジア、フィリピン、インドネシアなどがオサガメの主な産卵地である。

オサガメに限らず、ウミガメの卵はタンパク質が豊富なため、昔から現地の人たちの栄養源として重宝されてきた。このため、乱獲のため、数が減少していったと考えられている。また、マグロのはえ縄漁業などでも誤って捕獲され、成体が減っているともいわれている。いずれにせよ、コスタリカではこの10年で、産卵に来る成体の数が10分の1に減ったほか、以前は浜を覆いつくすほどのオサガメが産卵に来ていたマレーシアのトレンガヌ州では3年前を最後に産卵は確認できていない。

こうした状況のため、世界の営巣地では、人工ふ化による保護が積極的に行われているが、東南アジア最大の営巣地インドネシアのジャムスラムディでは、自然の状態のまま保護活動が行われている。

ジャムスラムディの産卵地は、東西18kmの海岸でソロンからボートで約6時間、見事なサンゴ礁が広がる美しい地域だが、政府の保護地域でダイビングなどのレジャーが禁止されているため、観光客が訪れることはない。現地の人も以前は卵を食用としていたが、WWFの説得もあって、今は保護に協力して、現在では自然のままの状態で保護されている。

オサガメの産卵のピークは6月から8月。深夜、満潮時に産卵が行われる。午後10時、保護活動を手伝う現地の人たちによるパトロールに同行する。東西18kmの海岸を6人でカバーするから大変だ。見つけたら懐中電灯を点滅させると決めてある。

パトロール開始から3時間半、スタッフが子ガメがふ化しているのを見つけた。自然ふ化の様子を映像に収めることは極めて難しく、カメラマンともども興奮を抑え切れない。待つこと30分、必死でもがきながら子ガメがはい出してきた。何度も前に進もうとして砂の壁に阻まれる様をもどかしく思うが、ここで助けたら、この先一人立ちはできまい。と思い、手を握り締めて応援することさらに30分、子ガメは寄せる波に乗り、大海に漕ぎ出していった。長い生涯の第1歩を無事、踏み出したことに、こちらも安心する。

その直後、遠くで懐中電灯が点滅した。オサガメ上陸の合図だ。走って現場に行くと、遠くの方に岩のような影が見える。「オサガメ」だ。初めて見るオサガメは想像していたよりも大きく2メートル近くもある。WWFのスタッフに尋ねてみると、体重は約500kg、推定年齢は70歳くらいだというからすごい。オサガメは産卵するまでは、明かりに過剰に反応するため、ライトは使えない。満月の月明かりだけが頼りだ。海岸から約15メートル離れた産卵場所にたどり着くと、巨体をよじらせながら器用に産卵のための穴を掘っていく。小1時間かけて、約1メートルの深さまで掘ると、おもむろに産卵が始まった。一度に4個ずつ、小刻みに体を震わせながら卵が産み落とされていく。神々しい儀式に立ち会っているような瞬間だった。その数、70個余り。卵は2カ月かけてふ化し、子ガメたちは試練の海に旅立っていく。