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| ■携帯洗浄器のこと |
最近、また東南アジアが騒々しくなってきた。内紛、テロ、そしてSARS( = 重症急性呼吸器症候群)。ことSARSに関しては、ことし7月にWHO( = 世界保健機関)が制圧宣言を行って以来、初めての「可能性例」、つまり限りなくSARSに近い症状を呈している患者が9月に入ってシンガポールで確認された。
私たち特派員にとって困るのは、こうした騒々しい状況になると、空港などの公共の場所でのセキュリティーチェックが目に見えて強化されることだ。強化前はポケットに小銭を入れていても金属探知機を通過できたのに、急にベルトのバックルでも反応するようになって、たくましい体型の空港警備員に熱い息をかけられながら全身を触られることになる。
手荷物はといえば、こちらもしかりで、X線装置で中のものを確認しているにもかかわらず、すべての荷物を開けるよう指示される。これがつらい。私は着いた先での荷物のピックアップの煩雑さを避けるため、機内持ち込みできる車輪付きのトランクケースを持って出張に出かけるのだが、これには、いろいろなものが詰まっているからだ。必ず係官から質問攻めに遭う。
というのも、トランクの中に入っているものはといえば、小型ビデオカメラ、デジタルカメラ、懐中電灯といった緊急の取材に備えて持ち歩いているものから、パソコン、小型プリンターなどの常備品、つまり係官から見ると怪しげなものがたっぷりと詰まっているからだ。そしてもっとも説明に困るのが、「携帯お尻洗浄器」だ。
この機械、円筒形の透明な容器に本体が収納されていて、見るからに怪しいものなのである。荷物検査の際、最も説明を求められるのがこれだ。
そもそも、この「携帯洗浄器」を持ち始めたのには理由がある。私がよく行く東南アジアの国々では、時として用を足すとき大いに困るときが多いからだ。
汚い話で恐縮だが、排便後、まず紙がない。辺りを見渡すと、水を入れたおけが申し訳なさそうにおいてある場合が多い。このおけに水が入っていないことや、指を入れるのをためらうくらい濁っていることもままある。赴任してから1年余り、大概のことには慣れたとはいえ、この便所の状況だけは、どうも受け入れることが難しい。
この危機的状況を救うのが、まさにこの洗浄器だ。しかし、良いことの反面、検査での苦痛が求められる。ほとんどの係官はまず、おそるおそる洗浄器を指差して聞く、「コレハナンダ?」、私「トイレに行って使うものです」、係官「アケテミロ」。この後がまずい。気密性が高い容器は開ける際、「ブシュッ」と怪しげな音をたてる。ここで大概、騒ぎになる。係官は後ずさりし、別の係官を呼び、私は彼らに囲まれることになる。ここからが恥ずかしい。洗浄器を組み立てて見せ、それでも彼らが理解できなければ、その場にしゃがみ、実演をすることになる。先日のインドネシア・バリ島でのASEAN会議の取材の際もこの憂き目にあった。彼らの辞書に「携帯お尻洗浄器」の文字はないのである。受難は続きそうだが、洗浄器は当分、手放せそうにはない。
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