解説委員の眼

智田 裕一

フジテレビ経済部デスク兼解説委員室解説委員
智田 裕一ちだ ゆういち

アナウンス室、ニューヨーク支局勤務、報道局経済部にて、兜・日銀キャップ、内閣府記者クラブ、財務省記者クラブ、財務金融キャップなどを経て、2013年6月から経済部デスク兼解説委員室解説委員。CFP(サーティファイド ファイナンシャル プランナー)、1級FP技能士

ビットコイン 分裂騒動の行方は?

2017/07/31

 仮想通貨の代表格である「ビットコイン」。
支払い手段として使用できる店舗も増え、普及が進んでいますが、利用者の急増で、取引に時間がかかる現象も出てきました。
こうした中、ビットコインの運営をめぐり、「分裂」騒動が起こり、混乱のおそれが出ています。
この分裂問題、実は、ビットコイン発行の独特の仕組みと深くかかわっているのです。

 ビットコインは、世界の金融当局が維持している従来の法定通貨システムとはまったく異なり、中央のサーバーで、集権的に取引を監視する管理者は存在しません。その代わり、すべての取引を公開し、履歴を閲覧できる状態にしてデータを共有し、公正であるかを、全員でチェックしあうというシステムを作っています。
それを可能にしているのが、「ブロックチェーン」という技術と、そこに組み込まれた「プルーフ・オブ・ワーク」という仕組みです。

 「ブロックチェーン」は、取引データの固まりを、「ブロック」にして、時系列でつなげていくというものです。
ある時点で、AさんがBさんに送金手続きを行ったとして、その同じ時間帯には、たくさんの別の決済が行われているはずです。
このように、ある一定の時間内に発生した大量の送金や決済の記録を、
1つのブロックに収容し、「チェーン」のように継ぎ足していくのが「ブロックチェーン」です。
過去にさかのぼって書き換えられない、いわば不可逆的な記録の連鎖を、ネットワークのすべての参加者が共有するシステムであり、ビットコインでは約10分ごとに1つのブロックがつけ足されていきます。

 そのうえで、取引の公正さを保証するため、ビットコインでは、非常に興味深い仕組みを取り入れています。
最後尾のブロックにつなげる新たなブロックの作成にあたっては、そこに収容される数々の取引の正しさを検証し、ある難解な計算の課題を最初に解いた人に、新ブロックを追加する権利とともに、報酬として、新たに発行されるビットコインが与えられるのです。

 この仕事は、膨大な計算量が必要で「プルーフ・オブ・ワーク」と呼ばれ、その名の通り「仕事量による証明」とされています。
「ほうび」として得られるビットコインは、現在12.5BTC。
7月28日時点で、1BTC=2,700ドル前後ですので、10分間隔でおよそ3万3,700ドル、日本円でおよそ400万円に相当する価値が生まれることになり、いち早く計算に成功した者がそれを受け取ります。
10分に1回ですので、この機会は1日に144回訪れますが、解に到達するには、次々と条件を変化させながら、計算を繰り返すしかありません。
報酬としてもらえるビットコインを求めて数理計算にしのぎを削る状況は、金の発掘になぞらえて、「マイニング(採掘)」と呼ばれています。参加者は「マイナー(採掘者)」と名づけられ、ゴールドラッシュのような様相が人為的に作り出されているのです。
途中のブロックの内容を改変しようとしても、それ以降のすべてのブロックで計算課題をやり直す必要が生じるため、気の遠くなるような再計算をしなくてはならず、改ざんを行うのは実質的に不可能とされ、不正を抑制するメカニズムを報酬目当てのマイナーたちによる計算競争で担保している仕組みだといえます。

 一方で、マイニングを行うには、場所を確保して、特別なコンピューターを設置し、計算処理や装置を冷やす冷房のために莫大(ばくだい)な電気代を支払う必要があり、世界でこれが行える事業者は限られています。
ちなみに、ビットコインの発行上限は2,100万BTCと決まっていて、マイナーに与えられる報酬は、約4年ごとに半減していくルールになっています。2009年の運用開始当初は50BTCだった報酬額は、その後、25BTCに、2016年7月からは、12.5BTCに減っていて、新規発行は2140年ごろにはなくなる計算です。

 さて、冒頭のビットコインの分裂問題です。
ビットコインのひとつのブロックの容量は、1MB(メガバイト)に制限されていて、処理性能は理論値で1秒あたり最大7件といわれています。
このところ、利用者拡大で多くの取引が集中し、決済の遅れが懸念されるようになってきました。
そこで浮上しているのが、「容量の拡大」であり、8月1日からの実施が取りざたされているのが「ハードフォーク」(強烈な分岐)と呼ばれる拡大のやり方です。
これは、容量を大きくした新しい別のブロックを、もとのブロックチェーンから、フォークの先端のように強制的に枝分かれさせ、ブロックチェーンの仕様を抜本的に変更するもので、従来のチェーンとの互換性はなくなります。
世界最大のマイニングシェアを持つ中国のマイナーが、この案を進めるのではとの観測が広がる一方、処理能力の高いマイナーによる寡占化が進むことを危惧する声が聞かれます。

 実は、現実にハードフォークが起こった案件が、2016年、別の仮想通貨のプラットフォーム「イーサリアム」でありました。
あるプロジェクトで、システムの脆弱(ぜいじゃく)性をつかれて、多くの資産が流出したため、それを取り戻すため、この攻撃が起こった記録をなかったことにして、別のブロックチェーンに乗り換える対応を、少数の運営者だけで決めたのです。
これに対し、都合が悪いからといって、過去を書き換えるのはおかしいと主張する人たちが、旧版イーサリアムを使い続け、決定は禍根を残しました。

 今回のビットコインの分裂問題では、「ハードフォーク」以外に、ブロック内のデータの一部を分離して、別の領域に格納し、ブロックのサイズを変えずに情報量を増やす方法も提案されていますが、合意形成には至っておらず、日本国内でも、分裂後のトラブルに備えて、8月1日の入出金を停止する動きが出ています。

 既存の金融秩序と一線を画し、中央集権的な管理者なしに運営されてきたシステムが、図らずも、意見集約の難しい状況を生み出しています。
コイン採掘を行うマイナー勢力が圧倒的な力を持つようになる中、不特定多数の参加者全員が、取引の信頼性を互いに保証しあうという仕組みが機能し続けるのか、ビットコインの意思決定のあり方は、大きな岐路を迎えています。

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