解説委員の眼

石原 正人

フジテレビ報道局次長
石原 正人いしはら まさひと

フジテレビ報道局次長。細川、村山政権で連立与党キャップ。小渕、森、小泉政権で平河・官邸キャップを務める。「ニュースJAPAN」、「報道2001」を担当し、「スーパーニュース」のプロデューサーを7年間務め、2011年から政治部長。2015年から現職。

慰安婦報道の検証とマスメディアの責務

2014/10/08

 「朝日新聞の慰安婦報道が、日韓関係をはじめ、国際社会に与えた影響などについて、(第3者委員会に)徹底して検証していただきます」

 先月、謝罪会見で、朝日新聞の木村社長が、一連の「慰安婦」報道の検証を行うことを明らかにした。今週の木曜日から検証作業が始まるが、一足先に朝日報道を整理しておきたい。もちろん、慰安婦にされた女性は、筆舌に尽くしがたい苦しみを味わったと思うし、二度とこのようなことは起こしてはならないという前提で、検証したい。

 まず、一連の朝日報道は、吉田清治氏の虚偽証言に引きずられ、「日本軍が朝鮮人女性を強制連行して慰安婦にした」というストーリーに当てはまる部分をピックアップし、それ以外の部分は切り捨てたという印象を受ける。

 朝日新聞の一連の慰安婦報道が始まったのは、1982年。吉田清治氏の講演を報じたもので、1991年8月には「元慰安婦の証言」、1992年1月には「慰安所 軍関与示す資料」とスクープを連発している。吉田清治氏の証言は虚偽と判明しており、続く2つのスクープを検証する。

 1991年の「元慰安婦の証言」に関しては、韓国・ソウルに取材に赴いた記者が、元慰安婦と称する女性のテープを聞いて記事にし、本人に直接取材していないことが明らかになっている。この元慰安婦本人の証言が二転三転していることや「生活が苦しく、母親に40円でキーセンに身売りされた」、「キーセンの義父に慰安所に連れていかれた」という朝日新聞の報道後に本人が語った証言や東京地裁への訴状に書かれたことは、その後も一切報じられていない。つまり、「身売りされた」のでは「日本軍が強制連行した」という当初のストーリーにあわないということで、無視したと指摘されてもしかたない。

 次に、1992年1月の「慰安所に軍関与」のスクープの元となった陸軍省通達を精査してみる。通達は「慰安婦の募集に当たり、軍の了解があると誤解を招くもの、不統制に募集するもの、誘拐に類する方法を取るものなど注意が必要なものが少なくない。今後は募集にあたって軍が統制し、警察当局と連絡を密にし、軍の威信保持上、社会問題上、遺漏なきよう配慮を」という内容で、むしろ、だましたり、誘拐のような形で慰安婦を集めることがないよう、軍が統制するようにという趣旨にしか読めない。このほかの資料を見ても、「軍の関与」という事実は、間違いなく立派なスクープだ。しかし、「軍の強制」とは逆のベクトルの「強制をやめさせる」関与だ。

 ここで、朝日新聞は、通達の前段である「慰安婦の募集に...少なくない」という、軍が関与に至る理由の部分を引用すらしてない。強制をやめさせるため、軍が関与したのでは、当初ストーリーと異なるから無視したと指摘されてもしかたない。

 結局、通達の後段である「募集にあたって...」のみを引用し、軍の関与を報じ、同じ紙面に「従軍慰安婦」の用語説明として「約8割が朝鮮人女性と言われる。太平洋戦争に入ると、主として朝鮮人女性を挺身隊の名で強制連行した」と報じ、当初の「軍の強制連行」ストーリーに合う構成にしている。

 また朝日新聞は、自らの検証で、この軍の関与について、「慰安所と軍の関係の隠蔽化方針を周知徹底させる指示文書」という専門家の見解を載せているが、それならば「通達の全文」を載せて、読者に判断を仰ぐべきだ。

 こうした1991年、1992年の報道も、吉田証言が正しいという前提で、そのストーリー通りに記事を構成したものとみられる。そこで、1992年4月に産経新聞が、済州島で、現地新聞の取材や現地調査を行った秦 郁彦氏の証言で、吉田証言の信ぴょう性に疑問を投げかけた時が、この問題の大きな転機だった。ここが、吉田証言、済州島の検証、元慰安婦証言などを検証する良きタイミングだったといえる。

 しかし、その後も朝日新聞による「軍の強制」という吉田ストーリーの訂正報道は行われず、1996年に出された国連の「クマラスワミ報告」は、吉田証言やそれに基づくヒックス氏の著書が重要な要素になった。朝日新聞が吉田証言の評価を見直したのは、国連報告の翌年1997年のことだった。

 わたしも、長く番組制作に携わっており、スクープ証言をつかんだときに、その証言に合うストーリーを作り、それに関係する取材先を追っていくという手法は良くわかる。しかし、スクープ証言は思い込みも多く、その後の取材で、食い違いが露呈し、当初のストーリー通りにならないケースもままあり、ストーリー見直しの場面では判断が揺れ、その力量が問われる。重要なのは、迷った時は「真実を追い求める」方向に戻すことだ。

 先月、フジテレビは、東京電力の吉田所長の調書を報じる際、菅元首相や細野元補佐官の独自取材を行い、それもあわせて報道した。吉田調書などと、菅氏らの言い分の違いは違いとして、双方を放送することで、当時の混乱ぶりがわかり、真実が伝わると判断したからだ。真実を伝えるというわれわれの使命を忘れずに、今後も、視聴者・国民の知る権利に応えられるよう尽力したい。

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